手足の冷え、ふいに訪れるほてり、なんとなく続くゆらぎ。季節の変わり目や年齢の節目には、こうした揺らぎが重なりやすいものです。無理に何とかしようとするより、ほっとひと息つける時間を持ちたいものです。
忙しい毎日のなかで自分をいたわる「香りの習慣」について、小学校の養護教諭として約20年を過ごし、いまは香りと向き合う大藤チエリ先生に伺いました。何かを治すための話ではなく、一日のなかに小さなくつろぎを取り戻す、暮らしの工夫です。

約20年間、小学校で養護教諭として勤務。ハンドトリートメントをきっかけに、ボランティア活動やアロマ講師業をスタート。福岡市を拠点として、ボランティア活動やアロマ講師として活動中。アロマ講師として2000人以上の生徒を育成。
一日の終わりに、自分のための時間を

家族や仕事を優先して、自分のことはつい後回し。気づけば、ほっとする時間をしばらく持てていない、という方は少なくありません。やることに追われていると、自分をいたわることが最後に回りがちです。
「癒しを与えたい人は、まず癒されたい人。自分が満たされてフラットになるのが先」と大藤先生は話します。誰かを思いやるためにも、まずは自分がゆるむこと。一日の終わりに、ほんの少しだけ自分のための時間をつくる。その入り口として、香りはとても取り入れやすいものです。
大藤先生の原点は、約20年過ごした保健室にあります。毎日子どもたちを見るなかで、体の調子と心の状態は連動していると肌で感じてきたといいます。だからこそ、暮らしのなかで心をゆるめる小さな習慣を、ずっと大切にしてきました。
冷えとゆらぎに、共通の根っこがある
「自然の流れは、科学をもっても逆らえない。東洋思想では、人も自然の一部。自然に沿っていくことが大事」と大藤先生は語ります。
東洋医学では、体の巡りを「気・血・水」のバランスでとらえます。冷えも更年期のゆらぎも、この巡りの乱れとして地続きに見るのが先生の視点です。
特に関わるのが「心(火)」と「腎(水)」の二つ。「心(火)」のゆらぎは、上半身の熱と下半身の冷えが同時に起きる「冷えのぼせ」につながりやすいと言われています。「腎(水)」は成長やホルモンに関わる力を蓄える場所とされており、ここがゆらぐと冷えや女性特有のゆらぎが出やすくなるとも考えられています。
西洋医学的な見方でも、自律神経は体温調節や血管の収縮・拡張を担っています。「夏でも手足が冷える」「足は冷えているのに顔だけほてる」という一見矛盾した状態が起こりやすいのも、このゆらぎが関係しているとされています。東洋でも西洋でも、冷えとゆらぎには共通して自律神経とホルモンのバランスが関わっているのです。
香りは、この自律神経のバランスに直接働きかける入り口のひとつとして、古くから親しまれてきました。
香りは、気分を切り替えるお守り

大藤先生のコンセプトに「香りはお守り」という言葉があります。バッグにそっと忍ばせておけば、ふとしたときに自分を落ち着かせてくれる。持ち歩けるお守りのような存在です。
「香りは0.2秒で脳に届いて、心や体に直接働きかける」と先生。嗅覚には、ほかの感覚にはない特徴があります。考えるより先に、気分や感情に届きやすい。だから、好きな香りをひとつ取り入れるだけで、張りつめた気持ちがふっとほどけ、心地よい切り替えになります。
香りを楽しむときに意識したいのが、呼吸です。香りを感じながら、吸う息の2倍ほどの時間をかけて、ゆっくり吐く。この「長息」を繰り返すと、気持ちがゆったりとほどけていきます。香りと深呼吸はとても相性がよく、ほんの数分でも、心の景色が少し変わります。
一日のなかに、香りの居場所をつくる
香りは、時間帯やシーンに合わせて楽しむと、暮らしのリズムにそっと寄り添ってくれます。
朝は、すっきりとした柑橘系で気分を上向きに。日中、デスクで集中したいときは、ティッシュに一滴のせて手元に。夕方、肩の力を抜きたいときは、ルームスプレーをひと吹き。夜、一日を終えるときには、温かく包まれるような香りで、ゆっくりとくつろぐ。香りに「居場所」をつくると、自然と自分をいたわる時間が増えていきます。
スプレーボトルに水と精油を数滴加えれば、手軽なルームスプレーになります。ディフューザーがなくても、コップにお湯を注いで1滴垂らせば、湯気とともに香りが広がります。植物油で薄めた精油で、手足をやさしくなでる「トリートメント」を取り入れると、嗅覚と触覚の両方から、よりゆったりとしたご自愛の時間になります。
季節に寄り添う、好きな香りを
香りに「これが正解」はありません。その日の気分で、ほっとできる香りを選んでみてください。
寒い季節の温かなくつろぎには、ゼラニウムやラベンダー、マジョラムなど、やさしく心をなだめる香りがよく選ばれます。気分をすっと切り替えたいときには、清涼感のあるペパーミントも人気です(「体感マイナス4度」と表現されることもありますが、体温が下がるわけではなく、あくまで香りの感じ方の表現です)。柑橘系のベルガモットやオレンジ、グレープフルーツをブレンドして、自分好みの香りに近づけるのも楽しみ方のひとつ。
「好きな香りは、経験と記憶」と大藤先生。心地よいと感じる香りには、その人だけの思い出が結びついています。いくつか試しながら、自分が一番ほっとできるものを見つけていく。その過程自体が楽しみになります。
肌に使うときは、事前のパッチテストをお忘れなく。 柑橘系は、日中の塗布で光毒性によりシミの原因になることがあるため、夜や室内での使用がおすすめです。
香り選びに迷ったら。陰陽五行という「自分を知る地図」

たくさんの香りを前にすると、どれを選べばいいか迷ってしまう。そんな声もよく聞きます。
大藤先生が伝える陰陽五行アロマは、スピリチュアルなものではありません。「占いと付いているけれど、これは統計学。スピのふわふわではありません」。東洋医学や心理学をベースにした、自分を知るための考え方です。
陰陽五行では、人をそれぞれ異なる「五行タイプ」としてとらえます。自分のタイプを知ると、今の気分の傾きや好みのクセが見えてくる。にぎやかな香りに惹かれる日もあれば、静かな香りに包まれたい日もある。そうした移ろいを知る手がかりにすると、「なんとなく好き」ではなく「今の自分に寄り添う香り」に出会いやすくなります。
「先を読むのではなく、自己分析や取扱説明書のような使い方。そうすると、お互いが楽になる」と大藤先生。香りに正解はありません。けれど、自分を知る手がかりがあると、選ぶ楽しさそのものが変わってきます。
例えば、冷えのぼせが気になるとき(「火」のゆらぎ)には、心を静める「ラベンダー」や「マジョラム」など、熱を落ち着かせる方向の香りが選ばれやすいと言われています。冷えが強いとき(「水」のゆらぎ)には、「ゼラニウム」や「ジュニパーベリー 」など、腎を支えるとされる香りが、東洋医学の考え方のなかでよく使われてきました。どちらの香りが心地よいかはその日の状態で変わります。「今日はこっちだな」と感じる直感を手がかりに、選んでみてください。
おわりに
冷えやゆらぎが気になる季節も、気負わなくて大丈夫です。何かを頑張るのではなく、自分が心地よいと感じる香りをひとつ選ぶ。それだけで、一日の終わりが少しやわらかくなります。
「自分は自分でいい、とホッとするところから始まる」と大藤先生は話します。まずは今夜、温かな香りでゆっくり深呼吸する。そんなくつろぎのひとときから、はじめてみませんか。
※本記事は、日本アロマ環境協会(JAEA)の安全基準をもとに執筆しています。なお、大藤チエリ先生が主宰する講座では、使用する精油のブランドや品質基準に応じた独自の使用方法をご紹介しており、本記事の内容と異なる場合があります。詳細は、先生の発信や講座でご確認ください。
また、本記事は、香りを楽しむ生活習慣・気分転換を紹介しています。特定の症状の治療・予防・改善を目的としたものではありません。精油は雑貨であり、医薬品ではありません。体調に不安がある場合は医療機関にご相談ください。精油は体質により合わないことがあります。肌に使うときは、事前のパッチテストをお忘れなく。