夏着物の素材は、絽(ろ)や紗(しゃ)、麻などの、透け感のある涼やかな生地です。「もったいないな」と思いながら、またそっとしまっておく…そんな経験をお持ちの方も、多いのではないでしょうか。
夏着物は着る機会が短く、真夏の1ヶ月ほどしか出番がありませんが、リメイクすることで長く楽しむことができるようになります。夏着物の生地ごとの扱い方とリメイクの入口を、和裁士の松田実央先生にお伺いしてみました。

夏着物は「難しい素材」ではない
▲着物リメイクアーティスト講座では、多彩な素材の着物をリメイクしています
夏着物のリメイクに踏み出せない方の多くが、「そもそもの素材の特性を知らず、いかし方が分からない」というお悩みをお持ちです。
和裁士として18年以上、800着を超える着物と向き合ってきた松田実央先生は、「生地の特性を知れば、どれも扱えないものはないですよ」と教えてくれました。
夏着物で良く使われる、絽・紗・麻の3つの生地の特徴は下記の通りです。
絽(ろ):初心者にも扱いやすい
絽は、2ミリほどの幅で横に細い線が入り、その部分が網目のように透ける生地です。全体に透け感がある紗とは異なり、構造がある程度しっかりしているため、裁断しやすく針も通しやすいとか。
夏着物のリメイクをはじめて試みるなら、まず絽からがおすすめです。
紗(しゃ):経験を積んでから
紗は全体的に透ける、非常に薄い生地です。美しい素材ですが、しるしをつける際に布が動きやすく、玉止めが抜けてしまうこともあるそうです。扱いに慣れてきた段階で挑戦してみたい生地です。
麻:洋服向きのハリがある
麻は正絹と比べるとやや硬めの糸を使っているため、生地にしっかりとしたハリがあります。ブラウスやワンピースなど「洋服」として仕立て直す際には、このハリが形をきれいに保ってくれるのだそうです。洋服リメイクとの相性がよい素材です。
リメイク前に知っておきたい3つのこと
素材の性質を理解したら、次は下準備です。ここを丁寧に済ませておくことで、仕上がりに差が出ます。
先に洗って縮ませておく
正絹の着物は水に弱く、洗うと縮んだり水シミが残ることがあります。だからこそリメイクの際は、着物をほどいた後に先に洗って縮みを出しておくことが肝心だと先生。「縮む前に仕立てると、後で形が崩れてしまう。だから先に洗うんです」稀に色落ちすることもあるので、リメイク前にきちんと洗っておきましょう。
アイロンは地の目に沿って、低温で
絹は熱に敏感で、高温のアイロンは焦げの原因になります。温度を低めに設定することが前提です。さらに気をつけたいのが、アイロンの方向。布をまっすぐ置いていない状態でかけると、その歪んだ形を布が「覚えて」しまうのだとか。縦横の地の目に沿って、まっすぐ整えながらかけることが、綺麗な仕上がりに繋がります。
作りたいアイテムを先に決める
夏着物には流水や夏の花など、季節感のある柄が多くあります。「リメイクに向かない柄はない」と松田先生は話す一方で、作るアイテムによって柄の出方が変わることも教えてくれます。
フレアのやわらかいワンピースに仕立てたいのに紬を使うと雰囲気が変わってしまう」と先生。素材と作りたいアイテムの相性も大切なポイントなのです。
着物でできるリメイク作品

▲オーダーを受けて先生が作った着物をリメイクした日傘
では実際に、着物から何が作れるのでしょうか。松田先生の講座での実例を交えながら、代表的なアイテムをご紹介します。
キャミソール(2〜3日で完成)
着物の生地をほどいて表地だけを使い、手縫いで仕立てるキャミソールは、初心者の方にも取り組みやすいアイテムのひとつです。1日目に生地を裁断してしるしをつけ、2〜3日目で仕上げていくペースで完成するといいます。どんな素材でも作れると先生は話していて、夏着物の薄い生地は着心地のよいキャミソールに変わるのだそうです。まずは1枚、試してみる入口として最適なアイテムです。
カーディガン・ジレ(袖を活かす)
着物の袖の部分をそのまま活かして、カーディガンやジレコートに仕立てる方法もあります。解いた後の形を活かすため、大きく作り変える必要がなく、比較的取り組みやすいのではないでしょうか。夏素材の透け感がそのまま、涼やかな羽織りものとして機能します。小物のリメイクより少し本格的に挑戦してみたい方に向いているアイテムです。
鞄・小物(ハギレまで使い切る)

ワンピースやキャミソールに仕立て直した後に残るハギレも、鞄や巾着、がま口ポーチなどに変えることができます。松田先生のInstagramには、留袖から仕立てた日傘のオーダー作品も紹介されています。「1枚の着物を使い切る」という発想こそ、リメイクの醍醐味です。
着物は、もともと「ほどいて縫い直す」ものだった

▲Instagram@hukasawarisa1186さん作の着物リメイクキャミソール
「着物を着ない人にも着物に触れる機会を増やしたい。廃棄されるならリメイクで使いたい」と松田先生。日本中のタンスに眠る着物の多さを、先生は残念に思っているそうです。
着物はもともと、手縫いで縫われているからこそほどけば1枚の反物に戻り、縫い直しがきく構造になっています。お手入れを続ければ長く使い続けられる素材でもあります。「着ない」という理由だけで行き場を失う着物を、針と糸で「着られるもの」へと生まれ変わらせるのは素敵ですよね。
おわりに
夏着物のリメイクでは、「大切な着物をうまく扱えなかったら」という不安があってなかなか一歩を踏み出せない方も多いです。
着物のリメイクは、針と糸があれば、はじめることができます。タンスの肥やしになっている着物をリメイクして、よみがえらせてみませんか。
※本記事は、監修者の知見および公開情報をもとに編集部が制作したものです。素材の状態や扱い方は個々の着物により異なります。実際のリメイク作業の際は、素材に合わせた適切な方法でお試しください。