親の介護が必要になったけれど、自分の生活や健康のことで手一杯…。そんなとき、「介護を拒否したら法律違反になるのでは?」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、親の介護を拒否したからといって、すぐに罪になるわけではありません。ただし、民法上の「扶養義務」や、場合によっては刑法が関係してくることもあります。
今回は、介護に関する法律の基本や、トラブルを避けるために知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
親子の扶養義務とは?

民法877条は、直系血族、つまり、親子と兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めています。これは、生活に困っている親に対して、子が経済的な援助などを行う義務のことです。
ただし、この「扶養」はあくまで生活を助ける範囲であり、「自宅で介護しなければいけない」という意味ではありません。体力や時間的に無理がある場合は、無理に介護を担う必要はないのです。
介護拒否は罪になるの?

では、もし親の介護を完全に拒否したら罪に問われることはあるのでしょうか?一般的に、介護をしなかっただけで刑事罰を受けることはありません。
しかし、極端な放置によって命に関わる状況になった場合は、刑法の「保護責任者遺棄罪」(218条)が問われる可能性があります。また、虐待やネグレクト(介護放棄)と判断されると、行政から介入されることもあります。
ただし、同居していない場合や、やむを得ない事情があるときは、必ずしも責任を問われるとは限りません。
行政から「扶養照会」が来ることも

親が生活保護を申請した場合、「子どもが援助できないか」という確認が自治体から届くことがあります。これを「扶養照会」といいます。これは強制力のあるものではありませんが、無視することはおすすめしません。
「経済的に余裕がない」「家庭の事情で対応ができない」など、援助が難しい理由があれば、正直に説明に伝えるようにしましょう。
一人で抱え込まないために

介護は、心にも体にも大きな負担がかかります。「自分がやらなきゃ」と思いすぎず、兄弟姉妹と役割を分担したり、地域のサービスや専門家に相談したりすることが大切です。
介護保険のサービスや、地域包括支援センター、ケアマネジャーなど、支援の手は身近にあるので、積極的に活用するようにしましょう。
どうしても介護できない正当な理由とは

介護をしたくても、物理的・精神的にできない状況は誰にでも起こりうることです。
法的にも社会的にも理解される「正当な理由」について知っておきましょう。
身体的・健康上の理由
自分自身が病気や障害を抱えている
持病があったり、障害を抱えていたりする場合、自分の健康管理だけで精一杯ですよね。介護は体力を必要とする作業が多く、無理をすれば自分の体調が悪化してしまいます。
医師から「介護は避けるべき」と診断されている場合は、診断書を用意しておくと良いでしょう。
体力的に介護が困難
親の体が大きく、移乗や入浴介助が物理的に不可能な場合もあります。
腰痛や関節痛など、介護によって悪化する可能性のある持病がある場合も同様です。
体力的な限界を感じたら、専門家に相談することが大切です。
精神的な健康問題
うつ病や不安障害など、精神的な疾患を抱えている場合、介護のストレスは症状を悪化させます。過去に親から虐待を受けた経験があり、PTSDの症状がある場合も介護は困難です。
メンタルヘルスの専門家から「介護は避けるべき」と判断されているなら、それは正当な理由です。
経済的な理由
仕事を辞められない経済状況
生活費や子どもの教育費、住宅ローンなど、経済的な責任を抱えている場合、仕事を辞めて介護に専念することはできません。特にゆらぎ世代の女性は、自分の老後資金の準備も必要な時期ですよね。
経済的な理由は、介護ができない正当な理由として認められます。
介護による経済的負担が大きすぎる
介護にかかる費用が自分の収入を大きく超える場合、無理に負担する必要はありません。親の年金や貯蓄で賄えない部分については、介護保険サービスや公的支援を活用しましょう。
自分の生活が破綻してまで、経済的援助をする義務はありません。
家庭の事情
自分の子どもの世話が必要
未成年の子どもがいる場合、子どもの世話が最優先です。
子育て中であることは、介護が困難な正当な理由として認められます。
配偶者や他の家族の介護が必要
すでに配偶者や義理の親、障害のある子どもなどの介護をしている場合、さらに親の介護を引き受けるのは現実的ではありません。
ダブルケア、トリプルケアと呼ばれる状況は、ひとりの人間が背負える限界を超えています。
遠距離で物理的に不可能
親と離れて暮らしており、仕事や子どもの学校などの事情で引っ越しができない場合、日常的な介護は困難です。
週末だけ通って介護するのも、体力的・経済的に限界があります。
過去の親子関係
虐待やネグレクトを受けた過去
幼少期に親から虐待を受けたり、ネグレクトされたりした経験がある場合、介護をすることは精神的に非常に困難です。
親との接触がトラウマを呼び起こし、フラッシュバックや不安発作が起こることもあります。
専門家に相談し、診断書や記録を残しておきましょう。
長年の音信不通
親が子どもを置いて家を出たり、長年にわたって連絡を取っていなかったりした場合、突然介護を求められても応じる義務はありません。
親としての責任を果たしてこなかった人に対して、子どもが一方的に責任を負う必要はないのです。
音信不通の期間や経緯を記録しておくと、説明する際に役立ちますよ。
親子関係の断絶
親から勘当された、相続放棄を強要された、暴力を受けたなど、親子関係が断絶している場合も正当な理由になります。
親が子どもの人生を否定したり、関係を絶つことを選んだりした場合、子どもが介護をする義務はありません。
介護したくない時の選択肢

介護をしたくない、できないと感じた時、罪悪感を持つ必要はありません。
自分と親の両方を守るための、現実的な選択肢をご紹介します。
介護保険サービスを最大限に活用する
要介護認定を受ける
まずは親に要介護認定を受けてもらいましょう。市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談すれば、認定の申請手続きをサポートしてもらえます。
要介護度に応じて、さまざまな介護サービスを利用でき、経済的な負担も軽減できます。
訪問介護・訪問看護を利用する
ヘルパーが自宅を訪問して、食事や入浴、排泄などの介助をしてくれます。週に数回の訪問サービスを利用するだけでも、家族の負担は大きく軽減されます。
デイサービス・ショートステイを活用する
日中、施設で過ごすデイサービスは、親の社会交流の場にもなります。ショートステイは、数日から数週間、施設に宿泊できるサービスです。
自分が体調を崩した時や、どうしても休みたい時に利用できます。
施設入所を検討する
特別養護老人ホーム(特養)
要介護3以上であれば、特養への入所を検討できます。費用が比較的安く、終身利用できるのがメリットです。
ただし、人気が高く、入所まで数ヶ月から数年待つこともあるので、申し込みはお早めに。
有料老人ホーム
費用は高めですが、サービスが充実しており、比較的早く入所できます。介護付き、住宅型、健康型など、さまざまなタイプがあります。
見学や体験入居をして、納得できる施設を選びましょう。
グループホーム
認知症の方向けの小規模な施設です。家庭的な雰囲気で、きめ細かなケアが受けられます。
サービス付き高齢者向け住宅
比較的自立した高齢者向けの住まいです。見守りサービスや生活相談サービスが受けられます。
介護が必要になった場合は、外部の訪問介護などを利用できます。
兄弟姉妹と役割分担をする
介護の分担を明確にする
兄弟姉妹がいる場合、誰がどの役割を担うか明確にしましょう。「長女だから」「近くに住んでいるから」という理由だけで、ひとりに負担が集中するのは不公平です。
経済的支援、通院の付き添い、手続きの代行など、それぞれができることを分担します。
遠方の兄弟姉妹にも参加してもらう
遠方に住む兄弟姉妹も、オンラインでの見守りや、経済的支援、書類の手続きなど、できることがあります。
「遠いから関係ない」ではなく、平等に責任を分担することが重要です。
成年後見制度を利用する
成年後見制度とは
認知症などで判断能力が低下した親に代わって、財産管理や契約行為を行う制度です。家族が後見人になることもできますし、専門家(弁護士、司法書士など)に依頼することもできます。
親の財産を適切に管理し、介護費用に充てることができるようになります。
任意後見契約
親がまだ判断能力があるうちに、将来の後見人を決めておく契約です。認知症になる前に準備しておくと、スムーズに移行できます。
信頼できる専門家に依頼することで、自分が直接関わらなくても親の生活を守れます。
距離を置く選択をする
最低限の関わりに留める
どうしても介護ができない、したくない場合、最低限の安全確認だけを行うという選択もあります。月に一度、電話で様子を聞く、見守りサービスを契約するなど、間接的な関わり方もあります。
罪悪感を持つ必要はありません。
第三者に任せる
ケアマネジャーや地域包括支援センターに親の状況を伝え、適切なサービスにつないでもらうことができます。自分は緊急連絡先として登録するだけで、日常的な関わりは専門家に任せることも可能です。
法的に関係を整理する
相続放棄を検討する
親が借金を抱えている場合、相続放棄をすることで、負の遺産を引き継がずに済みます。ただし、相続放棄をしても、生前の扶養義務は消えないことに注意が必要です。
相続放棄は親が亡くなった後の手続きですが、事前に検討しておきましょう。
扶養照会への適切な対応
親が生活保護を申請した際に届く扶養照会には、正直に状況を説明しましょう。「経済的余裕がない」「健康上の理由で援助できない」「過去の虐待により関われない」など、具体的に記載します。
扶養照会に応じないことで、法的な罰則はありません。無理に援助を約束する必要はないのです。
自分の心と体を守ることを最優先に
カウンセリングを受ける
介護をしたくないという気持ちに罪悪感を抱いている場合、カウンセリングを受けることをおすすめします。専門家と話すことで、自分の気持ちを整理でき、適切な判断ができるようになります。
介護から離れる勇気を持つ
無理をして介護を続けた結果、自分が倒れてしまっては元も子もありません。介護うつ、介護疲れで命を落とす人も少なくないのです。
「自分の人生を大切にする」ことは、決して自己中心的なことではありません。親を施設に預けたり、距離を置いたりすることに罪悪感を持つ必要はないのです。
「完璧な介護」を目指さない
介護に完璧を求める必要はありません。できる範囲で、できることをすれば十分です。
おわりに
親の介護に向き合うのは、大きな決断です。でも、介護を拒否したからといって、すぐに罰せられるわけではありません。
法律は、「できる範囲での扶養」が求められているだけです。
大切なのは、自分の健康や心のバランスを守りながら、無理のない選択をすること。必要なときには、ためらわずに周囲や専門機関を頼るようにしましょう。




